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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)8781号 判決 1985年3月28日

原告

飽浦宗光

被告

蔵重信博

右訴訟代理人

正森三博

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  原告は、「被告は原告に対し、二、三〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一一月二五日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求原因の要旨として、「被告は、訴外澤田尚久と原告間の神戸地方裁判所昭和五〇年(ワ)第五四八号建物収去土地明渡請求事件(原告・澤田尚久、被告・飽浦宗光)及び大阪高等裁判所昭和五二年(ネ)第二一四〇号同控訴事件(控訴人・飽浦宗光、被控訴人・澤田尚久)において、右澤田の訴訟代理人となつた者であるが、右各事件の担当書記官及び担当裁判官に働きかけ、右書記官をして虚偽の証拠調調書を作成させたり、右裁判官をして真実はもとより証拠にも相違する事実認定をした判決をなさしめるなど、種々の職権濫用行為をなさしめ、その結果、原告飽浦宗光敗訴の判決が確定した。被告の右不法行為の償罪としては二三〇〇万円の賠償義務を負わせるのが相当である。よつて、原告は被告に対し、右金員及びこれに対する右行為の後である昭和五九年一一月二五日から支払い済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」と述べ、その詳細を別紙のとおり陳述した。

二  被告は、主文と同旨の判決を求め、請求原因に対する認否として、「請求原因のうち、右各訴訟事件が提起されて裁判手続が行なわれたという客観的な事実は認め、その余は否認する。」と述べた。

三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因のうち、被告が、澤田と原告間の神戸地方裁判所昭和五〇年(ワ)第五四八号建物収去土地明渡請求事件(以下、「第一事件」という。)及び大阪高等裁判所昭和五二年(ネ)第二一四〇号同控訴事件(以下、「第二事件」という。)において、澤田の訴訟代理人として訴訟行為を行つたこと、右各事件においていずれも原告敗訴の判決が言い渡されたこと、原告はこれを不服として上告したが、最高裁判所は昭和五四年四月一九日、上告棄却の判決の言渡しをなし、右神戸地方裁判所言渡しの原告敗訴の判決が確定したことは当事者間に争いがない。

二原告の本訴請求は、右訴訟において本来原告が勝訴すべきであつたが、右のように原告敗訴の判決が確定するに至つたのは、第一及び第二事件の相手方訴訟代理人であつた被告が各担当書記官及び各担当裁判官に働きかけて職権濫用行為を行なわしめたからであるとし、被告に対し右不法行為に基づく損害賠償を請求するものである。

しかしながら、右のような訴えを無制約に容認するときは、確定判決によつて本来の訴訟当事者間では既に解決済の事件が、同事件の審理に関与した第三者を相手方とすることにより、右確定判決の認定判断を不当に誤らせたとする損害賠償請求訴訟の形態で際限なくむし返されることになり、ひいては紛争の一回的かつ終局的な解決をはかるために法が認めた確定判決の既判力及び再審の制度の趣旨を実質的に没却せしめる不当な結果となる。

このような不当な結果を回避するためには、右不正行為をなしたとする者に対する不法行為に基づく損害賠償請求の訴えは、同人につき刑事上の有罪判決が確定するなど、その不正行為の事実が明白に認められる場合に限つて認容することができるものと解するのが相当である。

そこで、本件についてみてみるに、本件全訴訟資料によるも、被告に対し原告の主張する不正行為について刑事上の有罪判決が確定したなど、被告が公序良俗に反する行為を行つたことを明白ならしめる事情についての主張・立証がない。

そうすると、爾余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は失当というべきである。

三以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(中田耕三 園田小次郎 始関正光)

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